梅色夜話



◎『風流比翼鳥』 巻四(「心中は同和気知の根元」)
 *備考*  男色派の話。テーマは「衆道の信」


 摂州難波津に、花村屋又六という男がいた。彼には兄弟の子供がいた。兄の亀之介は両の指に一つ増年(10+1=11)、弟・又三郎は三歳で、いまだ乳を飲んでいるというのに、哀れや又六は風邪をこじらせ、無常の煙と消えてしまった。又六の女房はひとかたならない思いに沈み、忘れることの出来ないはかない命も、二人の子供に隔てられ、若後家となってしまった。
 
 さて、又六には近しい友人が二・三人いたが、その中でも松屋喜七とは特に仲が良かった。
 その喜七は、亀之介の幼い身振りを可愛がり、行く行くは自分の弟(=若衆)にしたいと思っていた。だが仮初の戯れも、いつからか自然と真の知契となっていった。

 そんなことは露も知らない喜七の家族は、
 「喜七は若いから、いつまでもここに置いておくわけにはいかない。あそこもここも、色茶屋で金を使わせようと、呂州(湯女)・白人(私娼)・茶屋女が人をたらして銭儲け。喜七が悪所に染まらないうちに、江戸へ行かせて潮を踏ませたら(困難を経験させたら)、末も良かろう」
と申し合わせて、喜七に東下りをさせるという讃談だった。
 そんな中で喜七は、亀之介のことが悲しく、ああしようかこうしようかなどと、くよくよ思ったが叶わぬことで、亀之介に念頃に暇乞いをし、
 「どうかお変わりないよう」
と、涙ながらに江戸へ下った。

 喜七は江戸の三島町でわずかな商いをして年月を送り、過ぎし難波のことを思い出していた。
 だが、そのころ又六の妻は、夫が残した酒商いを仕舞い、弟・又三郎を連れて近江へ引越してしまった。子を捨てる藪はあっても身を捨てる藪はない(←ことわざ)とか、兄・亀之介はわずかな金を取って、道頓堀(陰間茶屋がある)に浮き身を流し、中村屋の抱えになしたのは悲しいことだった。


 そのころから、亀之介は喜七のことばかりが思われて、江戸の恋しさがやるせなく、伊勢や八幡や御多賀の社、それから難波の十五社神へ、はだし参りの願をかけ、
 「なにとぞ江戸へ下し給われ」
と願ったが甲斐もなく、親方は「次は相模だ」と人目も知らない旅に連れて行く。
 心をうち解くこともできず、情けなくも一年余りこの場所に暮らしたが、祈る心が通じたのか、年の始めに東から子供を抱えに来た弥助という男に訳を話すと、
 「さすがに心のしおらしい。幸芝の宮芝居、これに決めて江戸へ行こう」
と言う。亀之介は聞くに心も浮かれ、武蔵へと立ち越し芝居を勤め、もしや喜七に似た人がいるかもしれないと、あちこち尋ねまわった。

 誠に縁は異なもの味なもの。喜七は亀之介一家の事情は露知らず、文を送っても返事がないのを案じていた暮らしていたところ、ふと、亀之介に行き会った。
 互いにそれと分かったが、うれし涙を隠しあい、人目の関が許さない。喜七は鳥の音の合間を窺う間も落ち着かず、宿を求めてたずねて行くと、亀之介は喜び、はや立ちくれし身のつらさを語り、その悲しさに二人は涙を流した。
 再びめぐり合ったからには、逢坂の関がとどむとも、二人の仲は変わるまい。互いに立てる心中は、神よりほかに知るものもなく、いよいよその思いは富士を下に見、その情は千尋の水底に同じい。心は子母銭(しぼせん=ゼニ)のまわるに等しく、陰となり日向となり、微塵も忘れる隙もない。
 二世をかけて変わらぬ契りを交わし、誠の兄弟よりも深く、義理を重んじ、身を重んじ、ついに喜七は亀之介を請け出し(身請けし)、少々の商人となったという。

 信あれば徳ある、とはこうしたことをいうのだろう。




 離れ離れになっていた二人がついにめぐり合って……。
 あ〜なんかいいなぁ、こういうの。ベタだけど。

 さて、このお話のポイントといえば、ずばり若衆・亀之介くんの年齢! なんと11歳!! ●学生だよ;
 喜七さんはその時から亀之介くんの「いとけなき身振りをかはゆがり」、いつか自分のモノにせんと思っていたんですね。こ、これは……完全にロリですね。相手が男の子だからショタというべきか。しかも、親しい友人のお子さんですよ。いや〜ん、不道徳。(彼の親の言葉を見るに、意外と若いらしい。又六さん、ヤンパパ? それとも年の差友達?)
 しかも始めは「仮初のたはむれ」のつもりが「真の知契」になっちゃってるし。「仮初のたはむれ」、直訳すると「ちょっとしたイタズラv」 そこから発展して「真の」×××まで……。今のご時勢じゃシャレになりません。
 しかし、昨今世間を騒がせている人々と喜七さんが決定的に違うのは、亀之介くんを大切に思っているところ、決して自分の思い道理にしようとか考えてないところ。彼が江戸へ下るとき、涙を流して別れを告げたところを見ても、相当亀之介くんに入れ込んでいることがわかります。江戸に来てからも、何通も手紙を送っていますし。ずいぶん寂しがってますね。

 さて、亀之介くん一家にも不幸が起こります。お父さんが亡くなり、お母さんは商売を続けられずに引っ越し。なぜか弟・又三郎ちゃんだけを連れて行ってしまいます。残された亀之介くんは、道頓堀の陰間茶屋に身を売って、中村屋の一門に入ることになってしまいました。しかもどうやら、亀之介くんは旅子として各地を回りお仕事をするはめになってしまったようです。絵に描いたような不幸!

 それから一年、縁あって江戸方面へ旅することとなり、ついに愛しの喜七さんとめぐり合った亀之介くん。
 二人の契りはいっそう深いものとなり、喜七さんは一生懸命働いて亀之介くんを身請けし、それからはちょとした商売をして幸せにくらしましたとさ。
 亀之介くんは、幼い若衆さまから一転、幼な妻として喜七さんと所帯をもったと考えてもいいでしょう。周りからなんと言われようとも、自分の道を信じるものには徳がある! いい話です。


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