梅色夜話



◎『徒然草』第九十段


 大納言で、法印(僧階の第一位)になった者が召し使っていた乙鶴丸(おとづるまる)は、やすら殿(未詳)という者と親しい関係になって、常に行き通っていた。

 ある時、乙鶴丸が帰ってきたのを、法印が「どこへ行ってきたのか」と尋ねたところ、「やすら殿の許へ、行って参りました」と言う。
 「そのやすら殿は、男か法師か(在俗の者か出家した者か)」とまた問われたので、乙鶴丸は袖をかきあわせてかしこまり、
 「さあ、どうでございましょう。頭を全く見ませんので」と、答え申し上げた。

 どうして、頭だけが見えないのだろうか。




 どうして頭だけが見えないんでしょうかね?
 頭を見たことがないってことは、顔も見たことがないということですよね。どうやって知り合ったんだ?
 しかも、やすら殿と乙鶴丸は確実にそういう関係にあるわけですから、コトをオコナう時、「暗闇で見えない」ということはありえても、さわることくらいできるだろ。少なくとも、髪の毛があるかないかぐらいは、なんとなく分かると思うんですが……。それすらも分からないような体…いえ、なんでもありませんよ。あはは〜

 やすら殿って、名前ですかね、名字ですかね。どういう漢字を書くのかもわからない。
 ひらがなで書かれているは、乙鶴丸くんがその漢字を思いつけないから……だったらすごく可愛いんだけど、そんなことまで考えてないだろうな、兼好さんは。

 法印さまも、やすら殿が在俗か出家か聞いてどうするつもりだったんだろう。素直に「どこのどいつじゃ!」って聞けばいいのに。
 おそらく法印さまは、本当に乙鶴丸くんを「召し使っている」だけで、そういう対象としては見ていないんでしょう(お年寄りだと思うし)。
 乙鶴丸くんがやすら殿と付き合うのは、もう許しているけれど、彼を心配する親心から、そうやって聞いたんでしょうね。敵対する寺の僧とかだったら大変だし。

 なんだか、いろいろと謎の残る今段でしたが、一つ分かったのは、乙鶴丸くんのような、偉い僧に仕える稚児にも、寺を抜け出して誰かとお付き合いできる自由がある、ということですかね。
 うまく行ったのは法印さまの優しさも一因ですが、少なくともチャレンジすることはできる、と。
 稚児もがんじがらめじゃない、ということのようです。

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