梅色夜話



◎『常山紀談』より

−氏郷、伊達家の刺客を免(ゆる)されし事−

 伊達政宗、蒲生氏郷(がもううじさと、信長・秀吉に仕える)の威に圧(お)さるる事を、心中に深く憤りて、氏郷を殺すべき事を思案して、数代家に仕へし者の子に、清十郎といへる十六才に成りける者、容貌勝れて艶(えん)なりしに、密かにたくめる事を語り聞かせ、田丸中務少輔(たまるなかつかさのしょう)が児小姓に出して奉公させられけり。
 「田丸は氏郷と姻家の親しみあれば、来られん時、便りを伺ひて(隙を見て)刺し殺せ」との事なり。

 清十郎が父の方へ遣わしける書を、関所にて改め見しより事起こりて、其の謀(はかりごと)の泄(もれ)たりしかば、清十郎を獄に押し入れ、此の事を秀吉に告ぐるといへども、秀吉遠く慮(おもんぱか)りて、強いて伊達家と和平せさせられぬ。

 氏郷、清十郎を呼び出し、
 「我、過ちて、罪なき義士を獄に入れ、辱を与へたるよ。其の君のために命を捨てて忠をいたす、賞するに余りあり。とくとく、伊達家に帰るべし。」
と、礼義正しくもてなして帰されけり。
 
 記せし書に、清十郎が姓をもらしぬ。をしき事なり。



 なんとあの有名な伊達政宗さん、邪魔な氏郷さんを殺そうと、その姻家(縁組のある家)に刺客を送り込むことをたくらみました。
 そしてその刺客に選ばれたのが、顔立ちが「勝れて艶」な清十郎くん(16)!!
 「艶」ということは、単なる「可愛い」「美しい」と言うだけでなく、優雅であでやかで色っぽい少年、ということなんでしょうか!?
 そんな子が、いきなり「奉公させてください」なんてやってきたら、即採用ですよ! 足もと見るね、政宗さん。

 そうしてまんまと潜入に成功したものの、清十郎くんがお父さんに出した手紙が見つかってしまい、暗殺計画がバレてしまいます。そして、牢屋に押し込められてしまう清十郎くん!! キミには悪いけど、すっごく良いシチュだぞ。

 氏郷さんは、早速大ボスの秀吉公に報告。しかしさすがの秀吉公も、「美少年アサシン」と聞いちゃあ、憤る気も萎えちゃいます(妄想)。
 結局、蒲生氏と伊達氏は、和平を結ばされることになったのでした。(伊達氏が秀吉の傘下に入ったのが1590年なので、そのあたりの頃の話?)
 その後、氏郷さんは清十郎くんを呼び出し、その命がけの忠誠をお褒めになり、「罪無き義士」とまで言っています。
 しかし、そんなに「礼儀正しくもてな」すほど、清十郎くんは、悪事の手先ではありこそすれ、特に良いこともしていないような気が……。

 ともかく、無事に主君の許に帰った清十郎くん。めでたしめでたし……、の前にちょっと。
 蒲生氏とは和平にいたったけれども、当初の計画は失敗に終わっています。しかも計画がバレたのは、清十郎くんのせいとも言える。それなのに、のこのこと帰っていいものなのかな?
 いや、清十郎くんにおいては、不思議と絶対に叱られない気がするなぁ(笑)

 
 ところで、今回の政宗さんの戦略、これこそまさしく、「くの一の術」であります(と思います)!
 「くの一の術」というと、女性忍者の使う術、というイメージですが、本来は「女」をつかう術。すなわち、色気(性的魅力だけでなく、相手の"親切心"なんかも含みます)によって目的を果たす、というシステムの術のことです。
 だから、この術の直接的行使者は、女性でなく、少年でも良いのです。今回ような、武家への潜入・武将の暗殺といった任務では、やはり少年を使う方がやり易いですよね。ちなみに、「くの一の術」には、女装も含みます。


 さて、この文章の筆者・湯浅常山は、清十郎くんの名字が分からないことが残念だ、と言っていますが、そのせいもあってか、この子なんだか、武士の子!って感じがしないんですよね〜。
 「家臣○○の子」でなく、「家に仕えし者の子」ですし、どことなく垢抜けない感じがします。妖艶な美少年なのに、初々しいッてトコロがイイんだな、きっとvv
 刺客に任命されて、そして他人の家に小姓として奉公させられることになって、清十郎くんはどう思ったのでしょうか…。

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