梅色夜話



■蘭丸特集 その一■

◎『朝野雑載』より

 まずは、導入として家族構成なんかを……。(有名だけど)


 森三左衛門可成は、江州堅田(ごうしゅうかたた:現大津市)にて、浅井朝倉と戦ひて撃死す。
 男子四人有り。嫡子は勝蔵長一、後に武蔵守と号す。次男おらん、三男お坊、四男お力と云う。
 お蘭は才智武勇、人にこえたる者故、信長公御寵愛浅からず、十六歳の時、五万石の所領を下され、若手ながら、よろづの御談合に加へられしとなり。





 特に説明はいらないでしょう。
 しかし注目すべき点があります。男の子の蘭丸やその兄弟に対して「お〜」という愛称で呼んでいるという点です。  ↑の作者だけでなく、蘭丸は「蘭」とか「お蘭」とか呼ばれているイメージがありますよね。これについて、『南方熊楠全集』に興味深い一節を発見しました。
 それは、熊楠氏が、男色研究家・岩田準一氏に送った手紙のなかのひとつに書かれていました。

 「お――と称することは、小姓に限らず。小児また少年を愛して呼ぶときの詞らしく候。」
と始まり、また『信長公記』から
 「森乱御使にて岐阜御土蔵に……」
などという例をだして、
 「これら蘭丸を"乱"とつづめ呼びしなり。故に信長よりは"蘭"と呼び、側のものどもよりは"お蘭"と愛敬して呼びしことと察し候。」
と書いています。そして最後に、
 「すべて"お"の字を添うること、貴人の幼息や寵童を愛敬して下々より呼びしことと察し候。やがてはのろけきった主人も、その通りの称呼を使いしことと察し候。」
とまとめています。
 これらは、あくまで南方熊楠氏の考えでありますが、挙げられた例を見る限りでは、なるほどな、と思えます。「のろけきった」という表現が可笑しくていいですね〜。
 えーつまり、女性に限らず、少年の名に「お」を付けることはふつうにありえたこと、と思っていいでしょう。 高位の人に愛される美少年に対する、敬意と親しみの表れと考えられます。  お気に入りのお小姓には、是非是非「お」をつけて呼びたいものです。

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