梅色夜話



■蘭丸特集 その三■

◎『朝野雑載』より

 或るとき、信長公、爪を切り、小姓衆を召され、「是を捨てよ」とのたまひければ、「畏まり候」と申して、御爪を其のまま取りて立たんとす。
 信長公「先ずそれにおけ」と有りて、余の小姓衆を呼び給ひ、初めのごとくに仰せ付けられしかば、又右の小姓の仕方のごとく取りて立んとしけるを、又止め給ひ、別の衆を召さるる故、
 今度は森お蘭出けるに、右のごとく仰せられければ、御爪を一ツ一ツかぞえて見るに、九ツあり。今一ツ不足仕り候由、申しければ、信長公笑い給ひて、御膝の下より爪一ツ出し給ひ。
 さて、其の爪を持て立しに、人を付けて見せ給へば、安土の御城の門を出、紙に包みて堀の中へ入れ、帰りけるとぞ。




 (解説)
 あるとき、信長さまはお爪を切り、「これを捨てよ」と小姓たちに命じました。小姓たちが、ただ爪を集めて捨てに行こうとすると、信長さまはとどめて別の小姓に交代させます。
 そして蘭丸の番。蘭丸が集められた爪の数を数えてみると、九つしかない。「一つ足りませんが」というと、信長さまは笑って、膝の下から残りの爪を出したのでした。
 さて、信長さまの命で、爪を捨てに行く蘭丸の尾行をした人の話によりますと、蘭丸はその爪を、紙に包んで、城の外の堀に捨てたということです。

 なんて気の利く子なんだ、お蘭は!!
 かつて読んだ伝記漫画では、「切った爪が落ちていると危ないから」と言って残りの爪を捜し、掘に捨てた理由を「呪いなどに使われるといけないから」と同僚に説明していました。
 信長さまは、呪いなんて信じてないだろうけど、蘭丸の気配りには大満足のようですね。

 それにしても、信長さまが、このようなテスト(?)を実施した意図が、イマイチよく分からないんですが……。どうみても、「やっぱりお蘭は、ほかの子とはちがうなぁ」と再確認して悦に入ることが目的としか考えられないッ!!
 鞘の刻み当てクイズの時といい、信長さまは、お蘭勝利の出来レースを設定するのが、お好きなんでしょうか。



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