梅色夜話



◎刀による恋(『男色山路露』下04)

 豊前の城下に斉藤伝八といって、隠れない剣術の達人で、心も優しい男がいた。同じ家中に、美童と名高い山田大次郎という少年がいて、国中が彼に思い焦がれていた。

 若衆・大次郎はこのごろ、「関の孫六の刀」と言われる刀を買い求めていた。そしてその鑑定を剣術使いの斉藤伝八に頼もうと、下男に刀を持たせて伝八のもとへ向かった。
 伝八はちょうど非番で宿にいて、「さあどうぞ」と座敷へ通された。
 挨拶が終わると、大次郎は刀を出して鑑定を頼んだ。刀は孫六にまちがいなく、伝八が「殊に無傷の出来です」とほめると、大次郎は大いに喜こび、それからよもやまの話が続いた。

 元来、伝八は大次郎に深い執心があり、今日の御出(おいで)は衆道大明神のお引き合わせだと思い、自らの思いの丈を、そろそろと打ち明けた。
 すると大次郎は顔を赤らめ、
 「私には兄分がおりますので、お許しください」
という。伝八はかっとなって、
 「その兄分の名を聞かせなさい! 直々にあなたをもらい受け、承知がなければ太刀先でいただこう。(決闘して大次郎くんを奪い合うというコトです)」
と、血眼になって迫った。大次郎は気の毒に思い、
 「そうはいっても、広い家中に私ばかりが若衆ではありません。大事におよんだら、双方のお為になりません」
とさまざまに言いなだめれば、なだめるほど、かえって我慢ならないような顔つきをする。大次郎はしかたがなく、
 「それなら、私が腹を切ります。その後にどのようにでもお計らいください」
と脇差に手をかけるので、伝八は驚いて、
 「それほどまでに兄分を大切にお思いになるとはねたましいことです。しかし、あなたを殺したその後での太刀打ちに、なんの意味があります。あなたを殺すなんて思いもよりません。分かりました。恋はかなわずとも、たとえあなたのお顔を見るだけでも、楽しみとしましょう」
 そういって、切腹しようとする大次郎を押し止めるはずみに、大次郎は懐から一通の文を落とした。
 伝八はそのまま引ったくり、上書きをみると、『斉藤伝八様』と書いてある。
 合点がいかずたずねてみると、大次郎は
 「私はいまだ兄分がおりません。どうか、兄様となってくださいませ」
と言う。その心底の有難いこと! しかし伝八が
 「これはどういうことですか?」
と不思議がると、大次郎は恥ずかしげにうつむいて言った。
 「いつぞやからのあなたのご様子は、私にお心がおありになるかと思われましたが、なんの訪れもありません。
 家中に人が多い中にも、我が兄分にお頼み申し上げたいお方はあなたのほかにおりませず、折を見てお心を伺いたく思っておりましたところ、幸いにも今日のこの刀の目利き(鑑定)を頼み、私の心までもお見せしたかったのですが、只今の幸せ。今から後は兄様と頼みまする」
 
 なんとも有難いやらうれしいやら。夢ではないかと大次郎を抱きしめ、口を吸えば、一物はたまらずいきりいで、はやとりかかる早業。気のせくままに、淫水がみなぎり、ぱっとちった白波に、大次郎は
 「アア、これ申し。そろそろ遊ばせ」




 まさかのどんでん返しに、ついつい心も体も燃えてしまった念者さま。はやいですよ。
 伝八さんの心をためすために芝居を打った大次郎くんも、お人が悪い! それでも恥ずかしがってうつむく仕草が可愛いぞv
 若衆さまから告白される念者さまというのも今までの傾向からは珍しいこと。相思相愛の片思いだったなんて、うらやましい限りです。

 このお話では、恋愛の問題を「刀で決着をつける」という考え方が武士らしくて面白いですね。当人の気持ちは二の次で、「奪う愛」というか……(笑) でもやっぱり愛する人には死んで欲しくないと思っている。武士が決して死を賛美していたのではない、ということでしょう。(あ、なんか真面目になっちゃった)

 挿絵では、若衆さまが騎乗位で「そろそろ遊ばせの」とおっしゃっております。同じ画面に、隣の部屋で、着衣で抱き合う二人の若衆さま(年はちょっと違うみたい? ひとりは伝八さんらを気にしている様子)が描かれているのですが、本編には一切出てきません。オマケかな?


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