梅色夜話



■軽口衆道往来 プレゼント■

 今回は、お稚児さま・若衆さまへのプレゼントをテーマにお送りします。



◎きのふはけふの物語(上・59)

 ある若衆に貧僧が惚れこんで、恋文も数え切れないほど送った。しかしそのうちに、かの若衆は、さる大名にも惚れられてしまった。
 大名は藤原定家卿直筆の色紙を、「習字の御手本に」といって若衆にお贈りになった。貧僧はこれを聞いて、負けじと思い、弘法大師のお書きになった般若心経の三行ほどの断簡を、探し求めて差し上げた。
 また大名の方から、刀・脇差を、金銀の飾りをたくさん付けた、いかにも立派な作りにしてお贈りになった。貧僧はこれを聞いて途方に暮れてしまい、この返答に、剃刀(かみそり)などを送って済むわけがないと思い、

 何事も人にまけじと思へども黄金刀で手をぞつきぬる
 (黄金刀=黄金作りの刀&金の力、手をつく=傷つく&あやまる)

 この歌を詠んで贈り、やがてあきらめてしまった。


*このお話は*
 貧乏な僧が、恋敵の大名とのプレゼント合戦に破れ、若衆への思いをあきらめてしまったというお話。

*ポイント*
 以前、「源信直筆の書をプレゼントする」という話を紹介しましたが、有名人の書というのは、美術品やコレクションとしての価値のみならず、習字を必修科目とするお稚児さま・若衆さまにとっての教科書として、実用性も兼ね備えておりますので、贈り物としては大変素晴しいものでした。
 刀も、武家の若衆さまにはふさわしい贈り物ですが、金銀の飾りの付けられたものは、実用的ではありませんね; 大名さまがどれほどこの若衆さまにお惚れになっているかはよーく分かりますが。
 大名まで虜にする若衆さまがどんな方なのかも気になりますが(それより一国の王が一般人の美少年に打ち込んで、高価な贈り物をしていることのほうが問題だろうか。家臣たちはハラハラしただろうなぁ。)、金と権力を前にして、傷つき、ひれ伏してしまった坊さまがかわいそうでなりません。金銀の効果は分かりませんが、若衆さまが大名のお召しを断ることはできないだろうし…やはりあきらめが肝心!?
 「何事も人に負けじと…」その心意気は素晴しいです!



◎きのふはけふの物語(下・51)

 「御喝食様へ何がな進上申したひと思へども、刀、脇差はいらざる御身なり。扇などはいかめしからず。
 (御喝食さまへ何か差し上げたいと思うのだが、刀や脇差は必要のないお方だ。扇などはぱっとしない)」
と、色々とよく考えた末、とにかくお正月の遊び道具として、玉ぶりぶり(=「ぶりぶり」「ぎっちょう」などといわれる遊びの道具)の玉を、金銀で作って差し上げた。
 喝食はこれを御覧になって、
 「一段美しけれども、重うて振られはせず、いらぬ物ぢゃ。(とてもきれいだけれど、重くて振られないし、役に立たないものだ)」
といって、捨ててしまわれた。
 「それは惜しや。どこへ」
 「眼蔵(めんぞう=納戸)のまん中へ」

*このお話は*
 とにかく豪華な品を贈ろうと張り切りすぎた男(禅僧か?)。金無垢でできたぶりぶりでは遊べないので、捨ててしまったという喝食さま。しかし不燃ごみに出したというわけではなく、しっかり納戸にしまっておくちゃっかりさんでした。

*ポイント*
 ぶりぶりとはこういう遊びです→(ルールは自分たちでつくるんだろうなぁ)
 野球少年に金で作ったバットを贈るようなものですかね?
 喝食さまがいらないと言う理由が、「高価なものを傷つけたくないから」ではなく、「重くて振れないから」というのが、かわいらしいv 発言からするとローティーンな感じがいたしますが……(汗)
 「それは惜しや(もったいない)。」といったのは喝食さまのお友達でしょうか。喝食さまは、いつかは金のぶりぶりを、飾るなり売るなりして役立ててくれるでしょうけれど、今の本人の希望に添わない贈り物は、残念ながら物置行きです。



◎きのふはけふの物語(下・65)

 御ちごさまへ念者から、「何にても進上申したい」と、色々様々の物を御目にかけるのだが、まったく御気に入ることがない。
 「あまり曲も御座なひことぢゃ。せめて短冊硯をこしらへ進上申そう。(あまり愛想もないことだ。せめて短冊硯をこしらえて差し上げよう)」
 そこで、蒔絵は五十嵐(蒔絵師の第一人者)に頼んで好事をつくし、水入れは丹阿弥れうが(当時有名な彫金師らしい)に金と銀とで作らせた。水入れの注ぎ口に雀を作らせようとしたのだが、いっそのこと、御目にかけて大きさをお好みに合うようにしようと思い、お稚児さまの友達を介して伺い申し上げたところ、
 「雀のころは梟ほどがよかろう。(すずめの大きさは、ふくろうくらいがいいでしょう)」
と仰せられた。さてさて、今までの遠慮とは違って、念者もあきれてしまった。

*このお話は*
 愛するお稚児さまに何かあげたいと思うのだけれど、お稚児さまの好みに合うものがなかなか見つからない念者さま。とりあえず豪華な硯セットを作らせて、水入れの飾りにする雀の大きさの好みを尋ねたところ、「ふくろうくらいがいい」とのこと。やっぱりお金なのか!?

*ポイント*
 お付き合いしている間柄でも、プレゼントには気を遣います。この念者さまの場合、相手の好みを聞いたのは良かったのですが、お稚児さまの欲張りな意見にはあきれるしかなかったようです。
 しかしこの念者さまが硯を作らせたのは、超有名な人気カリスマ職人。オーダーメイドな上に金銀をふんだんに使用しております。なんというセレブ……。彼ならふくろうサイズの金無垢なんてたいしたコトないような気がします。





**まとめ**
 現代の男性のプレゼント事情はよく知らないのですが、当時は男男間で、かなり高価な品を贈ったりもらったりすることがあったようですね。少年の方にも、「高いもの、豪華なものが欲しい」という気持ちがわりと強かったりして、おもしろいと思います。
 イベントも記念日もない時代。それでも自発的に、愛しいあの子に何かあげたい! という衝動に駆られて頭を悩ませる念者さまが頼もしいです。

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