梅色夜話
■軽口衆道往来 若衆の本性■
若衆さまの本性を暴きます。
◎きのふはけふの物語(上・63)
そそっかしい若衆、餅を召し上がるというときに、数多く食べようと思ってあまりにもあわてたので、のどにつまらせてしまった。
人々は気の毒がって薬を飲ませても、のどを通らない。いろいろと言ううちに、天下一のまじない手を呼んだところ、まじないを行い、つまった餅はそのまま竜虎の絡み合ったような格好になって、三間ほど先へ飛んで出た。みんなが
「めでたひ事ぢゃ。さりとては天下一程ある。(喜ばしいことだ。やはり天下一だけのことはある)」
というと、若衆はお聞きになって、
「名人ではなひ。あつたら物を、内へ入るやうにしてこそ上手なれ。天下二でもなひ。
(名人ではない。せっかくの御馳走を、中へ入るようにしてこそ上手なのだ。天下二でもない)」
と言われた。
*このお話は*
若衆さまもお稚児さま同様、餅が大好きなんですね。できるだけ多く食べたい若衆さまの本音でした。
*ポイント*
「まじなひて」。なにか不思議な力で餅を外に出したのでしょうか? 超能力者みたいなもの?
「天下一」は、織豊期に全国統一の世情を反映して流行した言葉なのだそうです。若衆さまの「天下二でもない」というセリフには、思わず「あんたは小学生かッ!!」っとツッコミを入れたくなりますね。
◎きのふはけふの物語(上・58)
ある人、若衆の御訪問を得て、
「これは夢かうつつか、かたじけない事や。(これは夢か現実か。有難いことだ)」
と、いろいろとおもてなしをする。
「御さかなも御座なけれ共、せめて御酒なりとも参らせたひ。(お肴もございませんが、せめてお酒だけでも差し上げたい)」
と言って、様々お勧めすると、草履取りの三八がまかり出て、
「左様に酒な御しいなされそ。今朝もお里で、さけのみをまいりて、いまにお顔が赤ひ。
(そのように酒をお勧めにならないでください。今朝も御実家で"さけのみ"をお飲みになって、今もお顔が赤い)」
と申した。
*このお話は*
朝っぱらからお酒をお飲みになる若衆さま。
*ポイント*
「さけのみ」は、「米を発酵させて酒にし、しぼる前のもの」のことだそうです。およそ若衆さまにはふさわしくない、下品な飲みもの。それを朝から……、酒豪ですか?
さて、それを念者さまの前で暴露したのは、草履取りの三八(さんぱち?)さん。若衆さまにも、お稚児さまと同じように、付き人がいらっしゃるようです。恋人の家に行くときも影のごとく付きしたがって行きます。それが当たり前の世界では、まさに影のように気にならない存在なのでしょうけど。
◎軽口露がはなし(「羨ましきは食物の火事」)
四條川原に美しい野郎(役者兼男娼)がいた。実家は京の西・聚楽の者である。五月十五日は今宮神社の神事であって、この野郎は親里に祭り見物に行った。
ふだんは勤めの身であるから暇がなく、実家に行き来することはめったになかった。それで親も久しぶりにあっていっそう珍しく、またかわいそうに思って、なんでも御馳走してあげたいと、餅をついて食べさせた。
野郎も、「逢ふた時笠をぬげ(機会のあるときはすぐ実行せよ、という諺)」などというが、人目も恥もかまわず、たくさん食べた。
それでも、夕日が西に傾き入相の鐘が鳴るころ、自分の住む親方(抱え主)の所へ帰り、寝ても起きても苦しそうに見えるのを、同僚の野郎が見かねて、
「そなたの煩いは心地いかがある。(そなたのわずらいの加減はどう?)」
と尋ねた。
「ただけふのもてなしの餅をくひすごして、胸のやけるがくるしい。(ただ今日のもてなしの餅を食べ過ぎて、胸がやけるのが苦しい)」
と言うと、
「おれもちとその類火にあふて見たいよ。(おれもちょっとその類火にあってみたいよ)」
*このお話は*
以前もお稚児さまの似たような話がありました。美しい野郎だって餅が食べたいのです。「(胸が)焼ける」と「類火(=もらい火)」の縁。
*ポイント*
「野郎」。若衆歌舞伎禁止に伴い、役者は少年であっても月代を剃らなくてはいけなくなりました。それで売春もする少年俳優であっても「野郎」というのですね。
この話から分かることは、野郎は「親方」と呼ばれる抱え主(事務所の社長みたいなものか?)のもとで、住み込みで働いている、ということです。
昼は舞台・夜は布団の上で、がんばって働いている彼らにお休みはほとんどない。しかし地元のお祭りにのときには休暇がもらえるみたいですね。
自ら望んでか、スカウトか、はたまた金に困って売られたか。彼がこの道に入ったいきさつはわかりませんが、こんな大変な生活をしている子どもの里帰りに、親がはりきるのも無理はないですね。
おお、野郎さま(←言い方オカシイ;)も「おれ」と言っていらっしゃる。
**まとめ**
お稚児さま・若衆さまともに、昭和のアイドルがごとく理想の人間像を妄想されるわけなんですが、いやいやそんなことはない、ということが分かってしまいました。しかしそれが逆に親近感。愛嬌があってかわいいじゃあありませんか。
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